二章・忘却






「目覚めたか・・・」

見慣れぬ天井。角には蜘蛛の巣も張ったままの部屋に、聞き覚えのない男の声が響く。



「・・・」



カラダを起こそうとするが、まだだるい。目覚めたばかりと言う事だけでなく、何かカラダに違和感を感じたからだ。



「俺は・・・どうしたんだ?」



頭の奥が鈍く痛む。記憶に靄がかかったように、何も思い出せない。

首だけを横に動かすと、白銀のぶ厚い鎧に包まれた屈強な戦士が椅子に腰掛けていた。



「お前は・・・誰だ?」



徐々にカラダの感覚を戻しながら、カリスマは上半身のみを起こした。



「まぁ、落ち着け。色々、質問したい気持ちもわかるがな。」



戦士は、多少、失望したように言葉を続ける。



「その様子じゃ、あんたも何も覚えていないようだ。


先ず初めに、俺はあんたの敵じゃない。俺の名はハラド、あんたの仲間だよ・・・カリスマ。

・・・生憎、それしか覚えてないけどな。」



ぶっきら棒に答えるこの屈強な戦士に、カリスマは妙な安堵感を覚えた。













ハラドが敵ではない、いやむしろカリスマにとって大切な仲間である事は感覚的に理解できた。

同時に他にもカリスマの仲間がいる事も記憶ではなく感情が覚えていたのだった。

しかし、彼等とカリスマがどのような間柄であるかは記憶の奥底にあり、それを掬い出す事は不可能であった。

どんなに思い出そうとしても、記憶の深淵に近づけば近づくほど、靄が濃くなり手に取ろうとしたものが判らなくなってしまう、そんな感覚だった。





ハラドもカリスマと同じ場所で目覚め、記憶を失っている自分に初めの内は戸惑ったという。



「誰かの策略じゃないか?」

ハラドは言った。



確かに偶然にしては、記憶の抜け落ち方が符合し過ぎている。

誰かが、意図的に2人の記憶を奪った、そう考える方がこの状況では妥当であった。





そして、カリスマの背中には7つの赤黒い痣があり、まるで何かを強引に封じた痕のようだった。

目覚めの時に感じた違和感は、この醜い痣に違いなかった。




(アンタレス!)




その時、カリスマは直感した。

夢の中で見た巨大な赤い蠍、冷酷な瞳を持つ長身の男。




(奴の仕業だ。こんな事をするのは奴しかいない)



そして、悪夢の中の一筋の光、黒髪の少女は確かに助けを求めていた。




(イライザ・・・俺は君を必ず助け出す!)








ほんの一握りの記憶以外、全てを失ったが、”イライザへの想い”その想いこそが自分を解き放つ鍵になる事をカリスマは確信していた。









忘却編・第2話・・・完